ジェイソンという漢
起業家を最高に愛するエンジェル投資家に、僕らはなぜ最高に惹かれるのか?
2008年9月、サンフランシスコ金融街の隣接エリアにあるホテル日航でその面談は行われた。
そう、テッククランチ50のプレミーティング。
日本のベンチャーキャピタルから全力で全否定されたセカイカメラのプレゼンをたどたどしい英語で試みていた僕は、改めて、極めて、ロジカルに全否定されていた。
全く伝わらない。
酷いプレゼンだ。
こんな酷いものを、高い入場料払って来てくれている投資家には見せられない。帰ってくれ!
正確な言葉は覚えてないのだけどそのセカイカメラのプロトタイプ、デモ動画、プレゼン資料、全てに対しての全力のダメ出しだった。とにかく全てが正確に当たっている上、何より正しいフィードバックなのだからグゥの音も出ない!
一方、日本のトップVCから言われたことは、
「iPhoneが国内販売されるかどうか分からないし、そもそもアプリストアもアプリ開発キットも無いのだから、開発と販売の目処が立たない」
「だいたい日本でiPhoneが売れる筈がない!」
「ドコモのi-modeが携帯電話の全てのエコシステムを握っているのにだいたいあなたはドコモとどういう関係なのか?」
「売上の予測の桁が多すぎる。こんな大規模なスケールのビジネスは日本では成立しない。売上の桁をどうか下げてくれ!」
など、だいたいこういう感じのダメ出しだったのが(NECや富士通、パナソニックなどのガラパゴス携帯で動作するi-modeがとんでもない成功を納めていた当時 Appleの iOSが付け入るスキは全く無いように見えていたし、そもそもSDKやAppStoreの解放は実現されていなかったのは事実だった)一方とても具体的で、論理的な、プレゼン内容と製品への批評と、改善に向けた的確なアドバイスになっていることに、とにかく震撼した。
そう、その時のハードパンチを食らわしてくれた漢が、他でも無いその後ずっと付き合い続けてくれているジェイソンカラカニスだったのだ。
その後、僕らセカイカメラのチームは俄然奮起し、残り2日の間にすべてのプレゼン内容、デモプログラム、動画、それらの全てを作り直して、連日死ぬほどプレゼンテーションのリハーサルを繰り返しテッククランチ50前日の最終デモ日を迎えた。
「よくやった!」「あとはステージで頑張れ!」
そして、TC 50当日満場の拍手喝采で祝福されたセカイカメラはアッという間に世界的な話題の的になって、最終的には米国有数のベンチャーキャピタル含む機関投資家達から約15億円の資金を集め、スマートフォンで使われる拡張現実サービスの第一次黄金期を迎えることになったのだ。
もしあの面談でのジェイソンの辛辣だが愛情に満ちた(今なら確実にそう言える。当時は本当に悔しくて仕方なかったのだけど)アドバイスが無かったらあのプレゼンは生まれなかっただろうし積極的な批判でその生まれ出て来そうな、全く新しいアイデアを鍛えるというベイエリアならではの投資家スタイルを学ぶこともきっと出来なかったと思うのです。
ジェイソンのあの激しいアツさ、真剣さ、知的な鋭さ、ロジカルな回転の速さ、どんな批判も恐れない前向きな態度、そして何より、起業家固有のパッションへの揺るがない信頼。それらを僕は今だに最高に尊敬するし、そこから得た影響は、今でも自分自身の起業家スタイルに息づいていると確信しています。
その後も初回のLAUNCHカンファレンス(TC 50と同じくサンフランシスコ開催)に登壇した際に、そこでも改めてジェイソン流の洗礼を受けるのですが、未来の未知の価値に投資しようと言う投資家が最も持つべき、未来透視能力。それに何より惹かれます。少なくとも、2008年にARの持つ可能性の本質を彼は見抜いていました。
そして、もし彼にその製品の可能性の核を見抜いてもらったらもしかするとその創業者以上にその将来をリアルに描き出してくれるかもしれない!そんな知的スリルが味わえること。これが僕自身、ジェイソンから感じる最高の魅力なのです。それこそ、まさにエンジェル投資家なのだと思うのです。
ジェイソン、またガチ勝負しに行くから待っててね!
彼が書いたエンジェル投資家の本、無茶苦茶リアリスティックなのですが、一方その限りない起業家愛が溢れていて、とても勇気が湧き出てくる本でもあります。ぜひ、一度読んでみてください。