メタバース誕生前夜 - NFTとDAOが仮想と現実それぞれの空間で、社会構造をどう組み替えていくのか? その見取り図を描く試み

takahito iguchi
Dec 28, 2021

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所有の概念が変わりつつある。

2020–2021は「所有の概念」が切り替わった歴史的節目として、人類史に記憶されるのではないだろうか?

そもそも人が何かを「所有している」とは、一体どういう状態なのだろうか?例えばあなたの所有物、例えば手元のスマホ、これを所有しているということは一体どのように説明できるだろうか?購入時のレシート?保証書の存在?顔認証や指紋認証で”好きに使える”から?

或いは、”いま、自分がそれを”持っている”から?

人が耕して植物を植え、改良し、耕した土地は、土地からの収穫物を利用できる範囲内で、その人の財産である。

これはジョンロックの私的財産論の中の一節だ。

自然(土地)と労働と貨幣がやがて資本の偏在と人の疎外を産み出す物語は近現代の大きなテーマではあるが、そもそも「所有」概念とそれと直接関係する「財産」の定義は、それ以前からずっと長い時間を掛けて変遷を遂げて来た。

そもそもは全てが本来「神の持ち物」であり、それがやがて「王の物」とされ、そしてようやく「市民の物」となり、私的所有と私的財産は、民主化と細分化の長い歴史的な発展を経て、その”抽象性”と”流動の総量”は、ますます増大し続けている。

最初の鋳造貨幣は紀元前7世紀の「エレクトラム硬貨」と言われ、​​最初の紙幣は10世紀中国(北宋時代)で発行されたと言われ、やがて金本位制が廃止される1971年時点至る迄の通過の歴史的過程を考えても財貨を交換・流通させるためのトークン(紙幣や貨幣や債券・証書等)は、帳簿や会計システム、そして”資本をどう集めて、どう利潤分配するのか?”の諸々のプロジェクトや組織体(株式会社はその一部だ!)を支えるためのメカニズムと共にパラレルに発展を遂げてきた。

もし人類史を、より多くの人口が、より安定的に生存領域を獲得し、その領域を拡張し続けるのか?と言うプロセスだと看做すのであれば、資本とそれを増大させる組織体の進化発展とは、巨視的な意味で”全人類サヴァイバル・プログラム”内の主要テーマだと言えるだろう。

NFTとDAOがメタバースにやって来る。

NFTとは、Non Fungible Token(非代替性トークン) DAOとは、Decentralized Autonomous Organization (自律分散組織)を指す。2020–2021を「所有の概念」が切り替わった歴史的節目として、やがて見直す時が来るのではないか?と筆者が推察する根拠は、このNFTとDAOの急激な普及と、それに伴う多種多様で共進化的な出来事の連鎖的発生を、目の当たりにしているからだ。

NFTは代替されることのないデジタルデータとして、暗号資産によるデジタル鑑定書や所有証明書としての機能を有する。ブロックチェーン上で発行・流通されるのため複製やハッキングが比較的困難であり、それがNFTの持つ付加価値を支えている。DAOとは、合同会社とか株式会社といった既存の契約的枠組みを用いることなく、何らかのテーマの元、人々が集まってコミュニティを組織・運営するに当たって、ブロックチェーンのサーヴィスを取り入れた組織形態のことだ。

要するにレガシーな法的・契約メカニズムではなく、スマートコントラクトと暗号資産によって管理される組織構造体だ。​​

NFT取引市場最大手のOpen Seaの8月時点の流通総額が約3650億円(約33億ドル)となった。Open Seaの7月流通総額は、約330億円(約3億2700万ドル)であり、たった1ヶ月の間に月額比で10倍超の伸長をみせていた。また、世界の上位20のDAOが保有する暗号資産は、2021年初頭の10億ドル(約1110億円)から、8月には一躍60億ドル(約6660億円)以上へと増大したと推定されている。​​

よく引用される事件だがジャック・ドーシーの最初のTweetが約3000ドル(約3億1700万円)で落札されたとかティムバーナーズリーの「WWW」のソースコードが540万ドル(約6億円)で落札されたとか「RTFKT」制作のバーチャルスニーカーが合計310万ドル(約3.3億円)で落札されたとか、要するにこれらは今は「バブル現象」だと見られているのだが、これは決して一過性の出来事などではない。

オープンなメタバースとブロックチェーンの理想的な結婚

冒頭に述べたように、「所有」と「財産」の本来的運動は「交換と流通の抽象化と流通量の増大」へと(長い歴史の中で継続的に)邁進してきた。そしてそれは株式会社に代表されるような組織体の、法的枠組みや、契約形式の発展と共進化して来たのだ。

メタバースの未来は”NFT”と”DAO”によって大きく化けるのではないか?と、筆者は考えている。NFTは「所有の概念」を大きく切り替えつつあり、DAOはその「所有と財産のありよう」の変貌に対応した、あらゆる集団、組織、企業、資本市場、政府や地域等(に於ける参加方法や意思決定メカニズム)を大きく書き換える影響力を形成しつつある。

人のモノの「所有」や、その「財産」のありようが、”NFT”や”DAO”で書き替わっていくことは、結果メタバースによってさらに大きく加速する。

メタバースは人の生活空間や生産空間を現在のアナログ的な現実社会の枠組みを大幅に拡張する。

ARとVRの体験価値の差異や、利用スタイルの違いすら乗り越え人がデジタル化された状態(アバター化)で、デジタル空間を介した諸営為をこなす時間の総計は今後ますます増大するだろうが、そこで”NFT”や”DAO”は欠かせないだろう。

代替のできない暗号資産は、それこそ「所有の基本単位」になるだろうし、現実空間を超越して暗号資産を育む分散的な集団は、自ずと”DAO”のような「仮想的な組織形態」を本質的部分で必要とするだろう。

ブロックチェーン前後はインターネット前後よりずっと大きな変化を招くだろう。

ウェブのHTTP(Hypertext Transfer Protocol)は1990年以降オープンな分散ネットワークとして大きな成功を収めた。

が、それ以前は CompuServe AOL AppleLink かつてのMSN( The Microsoft Network の略)などのクローズドなパソコン通信が世界の趨勢だった時代がある。

いま進捗しているNFTとDAOが体現する暗号資産エコシステムはそういった意味では、既存の経済インフラに対して、かつての(旧来のパソコン通信網に対しての)インターネットの到来のようなインパクトがある。

そして、パソコン通信がAmazonやGoogleなどを産み出さず、UberやAirBnBなどを孵化しなかった反面インターネットやそれと接続したスマートフォンが、それらを通じて、新たな(巨大な)経済圏を産み出した事実以上に暗号資産エコシステムは、我々の想像を超えるユースケースやアプリケーションを産み出すだろう。

だからこそ、メタヴァースとブロックチェーンの蜜月は見逃せない。

ITとは「情報技術」のことだが、暗号資産エコシステムはもはや「情報」に留まらないのだ。

それはモノの所有や、我々の私的財産、ひいては社会的組織構造と直接関わる(資本とその分配、選挙に代表される意思決定や税に代表される公共コスト負担の分配等)システムであり、その提供形態としてはメタバースは抜き差しならない、渾然一体の存在と言えるのだ。

2021/10/22 TAKAHITO IGUCHI @KYOTO

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