数分間の新しい習慣を創造せよ。
新しいデジタルのエコノミーを作っていくには、人の過ごす、日々の、当たり前の、習慣の中に入っていく必要がある。
Twitterにしろ、Facebookにしろ、Snapchatにしろ、Instagramにしろ、先ずはウェブやアプリの形を取ってはいるが、現実には日々の生活の中で、人が人とやりとりする、日常の習慣の中で使われて育ってきたものだ。
習慣化されない行動・行為には、アプリを通じエコノミーを形成するだけのボリュームが生まれ得ない。
それが例えば日に数分(または数秒)だとしても、将来世界中でその数分間が費やされるなら、そこから生まれるエコノミーは天文学的な規模に至り得る。
グロースハックの教科書「ハマる仕掛けフックモデル」など、その習慣化の仕組みを行動心理学的な人の行動の動機付けや、その頻度に着目して解き明かそうとした非常に具体的な指南書だ。
人が習慣化される、新しい行動に到達するまでの認知メカニズムを解き明かそうとするこの試みは、
(1)なぜそのアプリが最小単位の欲求ー行為にフォーカスするべきか?
また、(2)今まで存在するアプリを避けて、今迄にない、欲求ー行為のアプリ化を進めるべきなのはなぜか?の理由を説明してくれている。
そう、すでにある習慣(欲求と行為のペア)として定番化しているアプリを書き換えるのは、常に困難なのだ。
また、多くの習慣を一気に書き換えようとするのは、アプリの成功を考える限り、決して得策とは言えないのだ。
新しい習慣の探索と創造と普及。これが出来ない限り、スタートアップとして取り組むだけの大きなエコノミーは作り得ない。
数分間単位の習慣、つまり「欲求と行為のペア」を発見して、可視化し、アプリとして、デジタルな習慣化の仕組みを創造する。
これがスタートアップとしてもっとも必要な行動だと言い換えられる。
一方、我々の日々の生活を巡る消費のパラダイム。製品開発にまつわる人の意識は、非常にベーシックなレベルで大いに書き替わりつつある。
自動車や家電などが定期的に新モデルを販売し、それを大衆が買い換えるいわゆる「計画的陳腐化」と呼ばれる第二次大戦以降のアメリカで起こった大量消費の文化と経済。
これは未だになかなか超えがたい巨大な原理であって我々の(消費にまつわる)思考の枠組みを支えてきた、ある種のドグマのようなものだった。ところがそのドグマにも変化の兆しがある。
それはすでに多くの人が感づいているが、一方では、あまり言語化されていない、今目の前にある現実だと思う。例えば、
「人はもはや価値に大した価値を置いていない」
というワイアードの記事(この記事でのゴミ漁りの起業家による言葉、実にリアルに現代の我々を言い表していると思う)を見ても感じるのが、今起こっている時代の変化とその予兆だ。
それは一体何なのだろうか?
そう、もはや、人は「分かりやすい便利さ」や「より安価であること」(に代表される、計画的陳腐化が内包しているロジック)には、不感症になりつつあるということだ。
新製品を巡る社会的な価値観が大きく土台から変わりつつある(かつてはデザイン思想や哲学議論で、陳腐化する大量消費のパラダイムを乗り越えられるのだという、ある意味、素朴で楽観的な想いが有った気がする)。つまり、
大量な流行商品を、大勢の人が一度に消費する。このパラダイムが、もはや陳腐化してしまった。
陳腐化を繰り返すことによって価値を創出し続けてきた、従来の経済メカニズム自体が、今や陳腐化をしようとしている。
哲学的価値観や美学的価値観など、より洗練された価値観を提唱する人、循環するエコノミカルな社会や、より地域型でコミュニティ志向の社会なども大いに語られてきた。
が、それらも「価値を価値と感じる」と言う大前提においては、おそらく疑いがなかったはずだ。
価値が、もはや価値でなくなろうとするとき、人はいったい何に魅力を感じ、なぜそれを為したいと思うのだろうか??
その視点から上述の「欲求ー行為のペアをデジタル化する」新しい習慣を創造すべきスタートアップの営みを捉え直すなら、その行為=日々の習慣のアプリ化は、単に便利であるとか、省力化に役立つというような従来通りの分かりやすい価値観だけでは成立しない可能性がある。
そして、それは、すぐ理解できる分かりやすい価値を提供するようなものとすぐには断定できない。つまり、その製品の提供価値をその場で言い当てられないような場合すらある。
非常に大きな枠組みでいうなら、インターネットがもたらした情報の希少価値と言う、旧来の価値観の破壊。その巨大なブレークスルーの先では、役立つとか、便利であるといった、生産性や効率性の希少価値も薄れつつあるのかも知れない。
そして、それがポストインターネット(人工知能の遍在化やVRARなど情報空間の普遍化、希薄化)の時代性なのかもしれない。
価値を疑う。それはもっともスタートアップの得意とするところだ。
流行りに乗るのが手っ取り早いというのではない、その流行の深層を掘り下げて、より本質的なもの、根源的なものを生み出す力が欠かせないように思う。