良いプロダクトと優れた起業家

サンフランシスコの友人と渋谷でプロダクト談義をした時、自分でもモヤモヤ感があったので、今考えていることを整理してメモにしてみます。

ビジョンベースの製品開発は正しいのか？

優れたビジョンが優れた製品を生むのか？それは甚だ疑問だと思います。

世界を変えたようなプロダクトの場合、その背景のビジョンそのものが実に優れている。とても鋭い現実の洞察を含んでいて、しかも新しい価値の実現方法を明快に提示しています。

Transportation as reliable as running water, everywhere for everyone （水道のように信頼できる移動手段、どこでも、誰でも） Uber の場合もそうです。また Unlocking unique spaces worldwide （世界中のユニークな場所を解放する） AirBnbの場合も同じくそうです。

エアビーはビジョンとプロダクトが見事に一致していますが、最初は試行錯誤の連続でした。

ですが Corporate vision または Mission statement のようなビジョンが製品づくりで主役になるのか？は、実は困難な面もあると思うのです。

簡単に言うと「人が使う製品が良い製品」という意味で言えば、ビジョンベースで構築された製品は、当初はそれを人が使うのか？（Product market fit の課題ですね）がまだ証明されていないので、そのビジョンが果たして本当に正しいかどうかの検証プロセスにいるだけです。

ウーバーのビジョンと製品は、未だに世の中を震撼し続けています。

そして、あくまでその製品が受け入れられてこそ、ようやくそのビジョンが正しいことが証明されるのだと思います。

「人が使うことで何らかの役に立つ、または喜ばれる製品」であることが証明されない場合ユーザーが存在しない製品は（スタートアップも）生存できませんから、それ以前にビジョンだけがぽっかり空中に浮かんでいるような状態はやはり奇妙です。

ビジョンはプロダクトを通じてユーザーに届きます。その対話こそが製品開発だと言えます。

ですので、まぁぶっちゃけビジョンが後付けでも製品ががっちりユーザーのハートを掴んで離さないような状態になれば最高です。

よく分かる例で言うと、あの Flickrや Slackなどが、実は当初はゲーム製品だったことや、あの Instagram が当初は位置情報系アプリだったことなど挙げられると思います。でも、

じゃあ、Think Different から始まった（まさに Vision がその大成功の起点だった事例）Apple の例はどうなのか？ですけど、あの Digital Hub 構想も、ユーザーが製品を受け入れエコシステムとして大いに受容されたからこそ価値がある訳です。

アップルがPCメイカーを乗り越えたのは、そのデジタルハブ構想が起点でした。

そして、そのビジョンが正しいかどうか？は現実の製品提供の決して平坦ではない歩みによってこそ、時間を掛けて検証されたのだと思います。

ビジョンそのものが構想や宣言として純粋に受け入れられるということはなくて、それが製品として体現されたものが顧客の心を掴んだからこそ、ようやくその価値を示し得たのだと言えます。

ではビジョンベースの製品開発はダメなのか？

と、言うと、全くそうは思いません。

スモールスタートアップがその製品に込める想いを共通言語としてチームの中で育んでいくアイデアとして明快なビジョンを提示して日々練り上げていくことは非常に効果的で、やはり一定の価値があると思います。

ですが、それが自家中毒的に「他者もその価値を受け入れてくれるに違いない」となってしまうとまさに（ビジョンで述べられている価値が）ある意味ドグマ的な存在になってしまい製品を顧客に届ける際の客観性や冷静な視点を失いがちです。

スタートアップにとっては、独自のビジョンが大きな力になる場合があります。

ただ、その弊害さえ意識的に排除できれば、強力なビジョン（による世界観の描写・表現）を用いて魅力的な製品開発に邁進すること自体はとても意味のある方法論だと思います。

特に新規性の高い製品開発は方向性を探りながらの製品開発になりますから、やはりビジョンの提示による指針の提示は大切でしょう（価値検証のプロセスが認知バイアス＝「ビジョンは価値があるんだ」と、ドグマ的な状態に陥らない限りは）。

いずれにしろ製品を通じて検証されたビジョンにはとても強い価値があると思いますが、逆は無いと思うのです。